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しかし、片端から店に飛び込んで聞いて回る時間的余裕がない。 視線を四方八方にやりながら通りを小走りに駆けた。 どすん!出会いがしら目の前の物体に跳ね返された。 「す・すいません。」 「びっくりした。」手に鉢植えを持った花屋のオバチャンだ。 「うちの犬見ませんでした?」 オバちゃんが首を傾げた。 「さぁー・気づかなかった。どの子がいなくなった?」 「一番大きいの。」 「そういわれてもねぇ。みんな同じに見えてしまって・・。」 「でしょうね。犬のジャニーズ事務所のようなものですから。 私もV6のメンバー覚えられません。」 「ブイソックス♪」オバちゃんが弾けた。 「知っているわぁタッキー!」 「タッキー!?」弾けた金歯がまぶしい〜ぜ。 「滝沢くん。大河ドラマに出ている子!」 「ブイソックスで一等かわいいのよ。うちの孫そっくり!」 孫ガリガリ君そっくりだろう。と言いそうになるのをこらえた。 イカン。こんなところで油を売っている場合じゃない。 私はオバちゃんに手を振ると駆け出した。 通りを渡り反対側を見ると、大衆食堂の店主が立ち話をしていた。 立ち話の相手はさっきのオババだ。 「犬見ませんでしたか?」 「捕獲したよ。」店主が即答し、オババが目を白黒させた。 それから事の顛末を話してくれ、福ママがロッコを送るはずだと教えてくれた。 「やれ、うれしや〜♪」大急ぎで自宅へ駆け戻った。 しかしロッコはまだ戻っていなかった。 すでに残り時間30分。取りあえず戻った4頭に夕飯を食べさせた。 「クララちゃんどこ行ったのかしら。」月ママがつぶやいた。 ロッコの子供クララと月は同胎の姉妹で仲良しだ。 本家と分家は年中行き来しているので、ふたりとも犬の気性を知り尽くしていた。 「ワルツ慌てモノだから・・道路に飛び出さなければいいけど。」 福ママが眉を曇らせた。福とワルツはロッコの孫だ。 ロッコはマイホームパパでも好々爺でもなかった。 女と自分には甘いが他には厳しく、気に入らなければ子や孫をボコボコにしていた。 福たちにとってロッコは偉大な祖父であり、帝国の支配者、悪の化身 ダースベーダのようなものだ。 違いといえばダースベーダは「お前の父親はわたしだ」と告白したが、 ロッコは今でも知らぬ存ぜぬを通していた。 福が緊張したのも、ボンボンがトントンたちと行動を供にしたのも、 生存本能に駆り立てられたからであろう。 「そこの角曲がってみて。よく散歩で通るから。」 車は5丁目の角をゆっくり左へ折れた。 ロッコはなぜ単独行動をとったのか? 雷恐さに飛び出したものの、メスのヒートの匂いにたちまち懐柔されたのだ。 ひと嗅ぎひと殺キンチョール。まるで蚊のような男だ。 しかも一家の長でありながら、家族を捨て色恋に走るとはあきれてモノも言えない。 「犬畜生にも劣る奴。」私は両指をボキボキ鳴らした。 ピンポーン♪ チャイムが鳴り、人の声と犬の声で玄関は蜂の巣を突っついたような騒ぎになった。 いよいよダースベーダと決着をつける時だ。 悪を永久に追放してやる! 私の足元を柔らかな毛がサッとかすめた。 次の瞬間、トントンが歓喜の声を上げてロッコに飛びついていた。 コンサート会場。 アルバン・ベルク四重奏団。シューベルト第14番二単調D810「死と乙女」 2階後方の席。 遅れてきた聴衆の中に、うつむいて寝息を立てている女がいた。 女の顔半分は眼鏡で占められていた。 おそまつ
![]() 店主は外へ出ると、降りそうで降らない空を見上げた。 雷はもう収まったようだ。 舗道では1頭の犬が電柱の匂いを嗅いでいた。 よく見れば首輪もなければ、飼い主もいない。 犬はふと顔を上げると、毛むくじゃらの顔でキョロキョロあたりを見回した。 「福じゃないか?」店主は店の中にいる奥さんに声をかけた。 福というのはお向かいのカフェの愛犬だ。 「福」と呼ばれて、犬の表情がパッと変化した。 「まあ、福ちゃん。どうしたの?」渡鬼のピンコのような女将が言った。 「ちょっと見ない間ずいぶん大きくなって!」 店主が即ケータイを取ってカフェに電話した。 マスターが急ぎ足で通りを渡ってきた。 「福なら家にいるよ。」 「どこの子だ?」 「本家に電話して聞いてみるよ。どれ重いなぁ。」 本家とはボンボンママ家だ。 福はクララの倅で分家なのである。 犬は抵抗もせずマスターに抱かれ、往来を渡った。 いつも、福は自分の家に他犬が入れば怒りまくる。 しかし今日は突然の闖入犬にもかかわらず、おとなしく場所を譲った。 それだけではない、まるで上官を前にした下仕官のように固まっている。 「ああ。キテイさんの匂いがする〜。」カフェのママが叫んだ。 「キテイ」とは行きつけのトリミングサロンだ。 本家に電話しても誰も出ない。 夫婦で相談の結果、別の分家へ迷い犬を連れて行くことになった。 「まあ。ロッコちゃんじゃない!」月ママが叫んだ。 車中でロッコが嬉しそうに尻尾を振った。 福ママが説明している最中、町内会のヒラメさんがやってきた。 「月ちゃん家に居る?」 「いるわよ。」 ヒラメさんによると、たった今、月とソックリの子たちが連れだって5丁目を流していたのを目撃。 御注進に来たのである。 そこへタラコさんが来た。 「あのね、サノ魚屋さんの前に月ちゃんたちが歩いていたわよ。」 福ママと月ママが顔を見合わせた。 「オーマイ・ゴッド!」 ふたりとも即座に本家の犬たちが、飼い主不在の間に大脱走したのを悟った。 5丁目も魚屋もかなりの距離だ。 「車に轢かれたらどうしよう!」 「さらわれたらどうしよう!」 「捜そう!」
![]() 最近はボトックスだのヒアルロン酸だの、 切符を取りに駅に行くと、上空に稲妻がピカピカ走り雷鳴が大きくとどろいた。 駅で用事を済ませ、今度はスーパと薬局へ行き自宅へ戻った。この間20分。 時計を見ると午後5時だ。 6時過ぎには仕度を済ませて出ないと、開演に間に合わない。急げや急げ! 自宅の駐車場へ戻ると、顔なじみの御用聞きが言った。 「犬が逃げたんですよ。」 「エェっ?!」まさに晴天のヘキレキだ。 「誰が?」 「全員!」 「ヒェ〜・・・!」 「さっき4頭戻ったけど、1頭が見つからないそうです。」 あたふた玄関を開けると、犬たちと一緒にダンナが出てきた。 今日はコンサートのため仕事が早仕舞いなのだ。 私は犬たちを見て言った。「みんないるじゃない。」 「ロッコがいないんだ。キミ開けっ放しで出た?」 「閉めていきましたよ。」「変だな・・・。」 私が出かけている間に、近所からダンナに「犬が逃げた」という電話があったのだ。 ちなみに我が家は職住一体。2階が仕事場である。 階下へ降りるとスリッパがなく、5頭全部いないので散歩へ出たと判断。 戻って電話の主にその旨を伝えた。 ところが直後に犬の鳴き声がしたのでドアを開けた。 すると、トントン母ちゃんと2頭の子供、それに孫の計4頭が、 一族の長だけ行方不明とはいったい何が起きたのか?! 「ロッコ探してくる。」 犬の習性で交差点がある場合、たいてい左ではなく右方向へ移動する。 私はそれに賭けた。 我が家から駅まで徒歩3分。すぐさま、向こうから歩いてきたオババにたずねた。 「犬を見ませんでしたか?」 オババが胡散臭そうな顔をした。 いきなり見知らぬ女に犬を見たか?とたずねられたら誰だって迷惑であろう。 「ラサアプソ犬・・・」そこで、はたと思った。 「あのぉ〜。金髪でこれくらいの大きさで」と両手を広げてみせる。 「道路をこう〜、毛でもって掃除して歩いているみたいな・・」 「ゴージャスな犬なんですぅ??」 説明すればはるほどドツボにはまり、オババの顔がますます歪むのがわかった。 「ああー、すみません。もういいです。」 私は逃げ出すように再び走った。 あのアホタレ見つけたらとっちめてやる!
![]() 友人たちは遊びに来ると必ず言ったものだ。 「ボンボンママの犬になりたい。」 庭付きの屋敷に、メイドつき「むろん飼い主のことだ。」 で何不自由なく暮らしているお犬様たち。 ボンボンファミリーが脱走したのである。 昨日まであんなに幸せそうだったのに! その日は朝から分刻みの忙しさであった。 夜コンサートがあり、翌日から2日間家を留守にするためバタバタしていた。 午後の散歩は早めに切り上げなければ、7時の開演に間に合わない。 散歩から帰るころ雷が低く鳴りだし、雨がポツポツ降り始めた。 ここ2年のうちに何故かロッコ親父とクララが、雷を恐れるようになった。 雷が始まると挙動不審になり、人の側から離れないのだ。 モノを破壊することはないが、尋常ならざる反応を示すことがあった。 案の定、クララが脅えたように瞳を見開き、 ロッコはそわそわしていた。 しかし、こんな奴らをいちいち甘やかしていてはこちらの身が持たない。 玄関先の廊下には、犬が飛び出さないように開閉式の仕切り扉がある。 この日は急いでいたため、ロックをせずに紐で引っ掛けただけで 近所へおつかいに出た。 戻ったらすぐさま、着替えてクラッシックコンサート用の 上品なナチュラル・メイクをせねばならん。 子ギャルのような眉ホソ、マスカラのテンコ盛りなら楽なのだが、 シミ、ソバカスだらけの「オバはんのナチュラル」は エラク時間が掛かるのである。
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