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これはカルマについての話です。 健全な愛犬家は、この先をけっして読まないで下さい。 必ずムカつきます。 先日、「寿司仁義」の土佐犬、次郎を抱かせてもらった。 私の土佐犬初体験は次郎だ。←「Bまでいった。」 そして不肖ボンママ、抱いたとたん次郎に惚れましたね。 男の中の男という礼賛があるが、生後40日にして、次郎は犬の中の犬という風格があった。 あれは何年前のことか・・・。 深夜、仔犬の泣き声が闇夜を裂いた。 母親を探す切ない声だ。泣き声は執拗に続いた。 私はたまらずガウンを引っ掛けると外へ出た。 近くなのは間違いない。仔犬は寒さと飢えで切ないのだ。 家の周囲を歩き廻っているうち、泣き声がピタッと止んだ。 今日でもう8日目。「あんなに泣かせるなんて!いったいどこのどいつだ!」 私は怒髪天で頭から湯気をモウモウ立てながら、家に戻った。 そんなことを繰り返しているうち、いつしか仔犬の泣き声はしなくなった。 それから暫くたったある日。 道路を渡って家に戻ろうとしたとき、陽気な犬の声が響いた。 声の主を捜してキョロキョロしていると、並びのすし屋「寿司仁義」から 戸の隙間からチラッと見えたのは、短毛の大きな犬であった。 あれが噂の土佐犬かぁ! アバウトで陽気な気質らしく、ブンブン尻尾を振っていた。 私は勝手にこの土佐犬をコング大佐と名づけた。 S・キューブリック監督の大傑作、「博士の異常な愛情」で、 「寿司仁義」は町内屈指の愛犬家で、バリバリの土佐犬マニアだ。 「日本土佐犬連合会」の長年の会員であり、本宅から10分程の別宅には犬専用の屋敷がある。 ラサアプソ・ジャパンの「犬めしシリーズ」に登場していただきたいものだ。 「寿司仁義」の大将は小柄だが、犬に負けない闘魂の持ち主だ。 坊主頭に眼光鋭く、亡き義母に言わせると「あんなヤクザがかかった男!」とののしられるほどアブナイ印象だ。 先日も「寿司仁義」の看板をぶっ飛ばし、我が家の前の電柱に車で激突した 大将の握る寿司はデカイ。 客を犬と思っているのか5個も食べれば腹いっぱいになってしまう。おまけにマズイ。 ネタも飯もいいのだが、握りのバランスが最悪なのだ。 にもかかわらず、毎年ボンボンママ家が「寿司仁義」で忘年会をするのは、寿司以外のものが美味いからだ。 アラカルトの仕込みは若大将。若大将は関取のような大男だ。 そして女将は、義母に言わせると「あんなヤクザがかかった男にもったいない!」ほどの美貌。 「寿司仁義」とはよく犬談義をした。 マグロの頭と一緒にエサにするつもりか、「別宅に遊びに来なさい。」と大将の誘いも受けていた。 なぜかわからないが、「寿司仁義」ではコング大佐を人前から隠して育てていた。 その不細工なお姿を見られるのは、女将や大将が裏木戸から出入りしている偶然に、出くわした時以外にない。 「もうかわいくて、かわいくて♪」 ボンボンママ家に、回覧板を持ってきた女将が答えた。 コング大佐の話になると、愛犬家らしくとろけそうな笑顔になった。 女将の趣味は男も犬も首尾一貫している。不細工系だ。 そしてこの時やっと、深夜に響いたあの仔犬の泣き声がコング大佐であることが判明。 聞けば、出産直後からコング母が仔犬を食べてしまったのだという。 結果、8頭出産し生き残ったのは2頭だけ。 「もうお父さんとふたりで、2時間おきにミルクを飲ませたのよ。 飲めば出すでしょう。だからコットンで、シッシをオチョンチョンして、寒くないようにオクルミに入れて。」 女将は美貌を上気させ、子育ての苦労話をしてくれた。 土佐犬でも生まれたての仔犬は無力だ。 目も開かず、排泄もできない2頭の仔犬。 注ぎ込んだ労力が大きいほど愛情は増大したであろう。 月日が経った秋晴れの日。 「寿司仁義」の女将とばったり出くわした。 「そういえば最近見かけませんが、コング大佐元気ですか?」 私の何気な一言に、女将の瞳が曇った。 「あのね・・・」女将はため息と共につぶやいた。 「この間・・死んだの・・・。」 「オー・マイ・ゴッド?!」 女将の黒い瞳にみるみる涙が溢れた。 「闘犬大会の若犬部門に出場させたら、相手に首を噛まれて。」 コング大佐。享年1才。噛まれた箇所から菌が入り、感染症で死亡。 私は絶句したまま言葉もなかった。 女将は涙声でつぶやいた。 「本当に・・自分の子供のようにかわいがって育てたのよ・・。」 「それは・・・大将もさぞ気落ちされているでしょう。」 こらえ切れなくなったのか、女将はハンカチで口元を押さえた。 「お父さん。お前のせいだって。」 「お前が甘やかしすぎたから、根性なしの負け犬になったんだって・・。」 そう漏らすと涙をぬぐった。 次郎の母親は出産3日目にして、乳腺腫瘍で死んだ。 仔犬たちは8頭のうち6頭が死亡。次郎と太郎だけが生き残った。 土佐犬の仔犬の生存率は低い。 母親が無意識に巨体で押しつぶす、 またコング母のように、精神的に未熟な場合は子殺しもあるのだ。 手塩にかけて育てられた次郎、太郎兄弟はこれから別の犬舎へ預けられ、 闘犬としての修行を積み、再び寿司仁義に戻ってから、デビュー戦へ挑むのである。 私は次郎の温かいぬくもりを胸に、その耳元にささやいた。 We'll Meet Again ♪ また会いましょう♪と。 |