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マオは日課の散歩と朝食を済ませ爆睡していた。 時おり口をモグモグ動かし、足をピクつかせている。 ボンボンママは新聞を広げた。 聞き流すだけで自然と身につくスピードランニング。 脳内革命だ。 「よくお聞き。」 「阿嘉島の雑種犬シロは、座間味島に住むマリリン会いたさに、 阿嘉海峡を3キロ泳いで毎日座間味島へ通っている。」 ボンママは海を渡るシロの写真を鼻先へ突きつけて断言した。 「この根性が明日の名犬を生むのです!」 ゴォーж マオはひときわ高い鼾で応えた。 鼻から泡のような鼻汁まで出している。 ウンガァーжブヒブヒ# あざ笑うように鼻をブイブイ鳴らした。 犬語でシャベラナイト。 「ウンガァーж→シロなんて ブヒブヒ♪→鼻くそ丸めてポイポイ」 ボンボンママは激しいメマイに襲われた。 一瞬、脳裏に「挫折」という文字が浮かんだ。 これでは教育者というより、 ショーグン様に寝物語を聞かせる婆やではないか? しかしこんなことで挫けていたら、 マオを更正させるなんてとうてい不可能だ。 次の作戦は猫同居だった。 愛と憎しみは紙一重。 生活を供にするうち、いつしか情が育まれるというものだ。 東京のQちゃんから、子猫を貰った。 Qちゃんは年齢不詳の金髪オカマ。 付け睫と長い爪がチャームポイントで、 ミック・ジャガーに浅草の花やしきを混ぜたようなルックスだ。 Qちゃんは動物好きで、沢山の猫やチワワと同居していた。 このチワワの顔はいつも湿っていた。 Qちゃんが「食べちゃいたいほどかわいい。」と、 溺愛していたからだ。 貰ってきた子猫は手足だけ白いカラス猫だった。 こんな愛らしいキテイちゃん、マオだって気に入るはずだ。 早速会わせるとマオは匂いを嗅いだ途端突進した。 驚いた猫が腕からすり抜け、本棚へジャンプした。 猫が本棚から悲鳴を上げ、マオが部屋中を駆け回って大騒ぎを始めた。 ニャアニャア。ワンワン。ドタバタ。 止めなさい!お止め! お止めったらお止め! 阿鼻叫喚と怒声が部屋中に響いた。 グルグル走り回る犬と飼い主。 そうだ! ボンボンママは和室へ飛び込むと、三味線を引っ掴んで戻った。 当時、端唄と小唄を習っていたボンボンママの三味線を、 マオはイヤがっていた。 お稽古を始めると、マオは決まってベランダへ避難するのだ。 ある日 稽古をしているボンボンママにダンナが訊ねた。 「何を弾いているんだ?」 「お江戸日本橋です。」 「橋がガタガタ崩れてるぞ。」 しっ、失礼な! ボンボンママはバチを握ると大暴れしているマオに向かって、弦を鳴らした。 ふつうはチン・トン・シャンだが、 安物は景気良くジャンジャン鳴るのだ。 ちなみに、いい三味線は猫だが 安物は犬の皮を張っているそうだ。合掌 ジャンジャン♪ 猫の〜を〜子猫〜のを〜の子猫の〜ねーこ〜のぉ♪ 猫の〜を〜子猫〜のを♪ ジャスカ♪ジャンジャン♪ 猪首がブルブル震えた。 脳内革命が起きたのだろうか? あのミ〜ケ猫のこっ♪ ジャンジャン♪の前にマオが脱兎のごとくリビングから出て行った。 ジャジャ♪ジャンジャンジャン♪ マオを殺すにゃあ刃物はいらない。 三味線のひとつがあればいい。 結局、子猫は知人に貰われていき、 ショーグンさまの英才教育は テポドンの打ち上げ同様失敗した。 つづく これから帝王たるにふさわしい教養を身につけるのだ。 「ぜひマオをお玉訓練所へ入学させたいのですが。」 「犬種は何でしょうか?」 「えっ!チャウチャウ#×∴▽」相手は狼狽した。 「あの、少々お待ちください。」 「悪いけど。」オヤジの太い声が響いた。 「うちはシェパードの訓練学校なの。」ガチャンж なんと電話は一方的に切られた。 ボンボンママは断られた悔しさより、お玉訓練所の経営が気になった。 広い敷地を抱えて、シェパードだけで食えるのかオヤジ? 次に、50年の実績を誇る〆針畜犬訓練所へアタックした。 ここは名門。卒業犬はレスキューや麻薬捜索などで大活躍しているのだ。 「ぜひマオを〆針畜犬訓練所へ入学させたいのですが。」 日照りのときは清流につかり 豪雪のときは飼い主に道を作らせ いつもふんぞり返って みんなにショーグン様と呼ばれ ほめられもせず 食いたいだけ食い そういうマオを わたしは変えたい 「チャウチャウ〜#×∴▽」 犬種を聞いた途端、〆針畜犬訓練所は唸り声をあげた。 「いゃあー。困ったなぁ・・・」 ボンボンママは食い下がった。 「授業料は倍出しましょう。」 「それに、チャウチャウは見かけと違って偏差値高いんです。」 マオは半年前のことでもきっちり記憶していた。 犯罪者は現場に戻るというが、 3ヶ月前に半殺しにした猫の居場所は忘れなかった。 また、包装紙を見ただけで上等なお菓子かどうかも判断できた。 他にも庭の外れに埋めたお気に入りの古長靴は、時々掘り返しては噛んでいた。 犬には訓練が入る犬と入らない犬がいて、チャウチャウは入らないのだ。 つまり頭が良くても、やる気と服従心がぜんぜんないのである。 「やる気のない奴には教えようがありません。」 いやまったくその通りであった。 最後に電話したドッグスクール・クンクンはスバリ言った。 「無駄と分かっていることに、お金と時間を費やすのはどうでしょうか?」 「人の心はお金で買えます。」 そんな丸ウソ垂れているから逮捕されたんじゃないか〜ホリエモン$ ボンボンママは決意した。 こうなったらこの私が金八先生になりましょうよ。 マオを本物のショーグン様に仕立て上げましょうよ。 マンセー・マンセー♪ つづく ※マオ様コラージュはボンママ提供です。 わからん奴は叩かなアカン!とばかり凸凹にしたこともある。 しかしトラウマというのは、理性でコントロールできないからトラウマなのだ。 うーん。困った。どうしたら良いかのう〜クルエラ。 表面だけでもいいから、猫と平和条約結べんかの〜マオ。 頭を抱えていたある日、新しい電話帳が届いた。 なに気にパラパラめくっていていた手が凍り付いた。 犬の家庭教師。 訓練したいけど、ワンちゃんと別れ別れになるのがいやな方 ぜひお電話ください!出張訓練いたします。 ドッグスクール・クンクン 信頼のおける50年の実績 警察犬から家庭犬の育成訓練 公認 〆針畜犬訓練所 広い敷地でのびのび訓練 愛犬しつけ教室を開講しています。 公認警察犬お玉訓練所 ボンボンママはマタタビを前にした猫のように受話器に飛びついた。 そうよ。マオに必要なのは教育。 無学なる者は貧犬となり下犬となるなり。 あの福沢諭吉先生が学問のすすめでおっしゃっていたわ。 青犬よ、大志を抱け。 ふと見れば昼間から高いびきのマオ。 ピッ・ポポツ・ピー・ポポ←プッシュホンを押す音 「はい。お玉訓練所です。」 まるで長寿庵のようなきびきびした声に、 ボンボンママはパンツのゴムをギューギュー締め直した。 もう誰にも腐ったミカン呼ばわりさせない。 つづく と言ったのは萌ちゃんだったか? しかし女優よりワガママな犬、それが皇帝マオ。 幼くして美貌とプライドをズタズタにされた彼は、猫への復讐を誓った。 春眠暁を覚えたその日、散歩の途中に何か飲みたくなって、カメラ屋へ寄り道した。 いつものようにカメラ屋のご主人から、ボンボンママはコーヒを、 春の陽気がまぶしく、空気はさわやかだ。 家は目と鼻の先。 ボンボンママが寛いで、新しいカメラを眺めていた。 と、突然すさまじい悲鳴があがった。 「ぎゃあ〜!」 両手をバンザイしたオバチャンが通りへ飛び出してきた。 隣家のオバチャンだ。 「キャー!家に犬がア〜ああああ!」 キューピーに良く似たオバチャンは髪を逆立て、2重顎をブルブル振るわせ叫んだ。 「たったすけてぇ!犬が、犬が・・・。」 カメラ屋で一休みしていると、時々きれいな白猫を見かけることがあった。 隣家には白猫と黒猫がいるのだ。 はっ・・・・・! ボンボンママは立ち上がるとマオを探した。 店頭にいない・・・・○×△×× 脱兎のごとく飛び出して隣家の玄関に飛び込んだ。 と、目の前に、白猫をくわえているマオの後姿があった。 「離しなさいっ!マオ!」 ボンボンママは土足のままズカズカ上がりこんで、マオの首を掴んだ。 「ええーい。離せ!離さんか!」 猫の腹には犬歯が食い込み、狼狽して激しくもがいている。 一打必殺。 しかしこの猫はマズイ!絶対にヤバイ! ボンボンママは首から手を離すと、マオの金の玉をムンズと掴んだ。 「こうしてやる!」 急所を掴まれてマオの犬歯が離れた。猫は一目散に視界から消えた。 ボンボンママはオバチャンに「申し訳ありません。申し訳ありません。」 と高島政伸のように平身低頭した。 怪我と怖さで白猫は1週間ほど家に戻らなかった。 揉めずに済んだのは、同じスナイパーだったからかもしれない。 実はオバチャン、見た目はキューピーちゃんだがクールな殺し屋だったのである。 「何にもわからないうちに始末してあげるのが一番よ。」 オバチャンは愛猫が出産すると、目が開かないうちに子猫を全部川に流していた。 白い猫でも黒い猫でも鼠を獲るのがいい猫だ。 ケ小平 つづく 愛猫家はけっして読まないでください。 必ずハンカチが必要になります。 一打必殺 これが猫に対するマオのセオリーだ。 特に庭へ侵入した奴には一片の情けもかけなかった。 猫が庭へ入り込むと、マオは縁側へ回り息を殺して照準を絞る。 猫が警戒心を解き芝生でゴロゴロし始めた直後。 縁側からジャンプし、素早く走って首を一撃した。 学説では、チャウチャウは狼の遺伝子が最も濃い犬種といわれている。 獲物を狙うときのマオには、一匹狼のゴルゴ13が入った。 ギャー!猫のすさまじい悲鳴と血しぶき。 強力な顎と犬歯が彼の銃だ。 マオとて、生まれつきグレゴリー東郷=ロマノフ・ゴルゴ13だったのではない。 仔犬の時のトラウマが彼を変えたのだ。 生後3ヶ月。 幼君マオは散歩へ出かけた。 立てば肉まん、坐れば豚まん、歩く姿は肉バーグのマオに黒猫が立ちふさがった。 猫は目を吊り上げ威嚇した。Wデブッ〜デブッ〜W 尻尾を振って親愛の情を示した。遊ぼう〜♪ 黒猫はフーっと唸ると次の瞬間マオの顔面に飛びついた。 そして長い爪でマオの整った鼻梁をキィーキィー引っ掻いたのだ。 マオはビックリたまげた。 コラッ! 大急ぎで猫を払おうとすると、黒猫はシュー!と闘拳の雄叫びを上げながら、 マオの背中に飛びつきまたもや巨顔をキィーキィー引っ掻いた。 マオの顔面は血だらけ。よほどショックだったのか鼻血まで出ていた。 これが世にいうマオの猫トラウマだ。 つづく クララが声のする方角に向かってけたたましく吠えた。 この1年猫がうるさい。 猫が啼けば、猫嫌いのクララが吠え、 追従してワルツとボンボンも吠えまくる。 ニャアーと啼けば、ワンワンワンワン、そこにボンボンママの 「コラ・やかましい!」の叱咤が轟く。 これでふとんを叩いていたら、間違いなく傷害罪で起訴だ。 まずい・・非常にまずい状況だ。 以前も猫が庭へ入り込んで遊んでいた。 首なし鼠や、シマ蛇をおみやげに置いていくこともあった。 泥棒猫にキッチンテーブルのパンや、チキンも盗られた。 しかし今回の猫たちは家に入り込むのは常識、 なんと階段まで上がって来るのだ。 吼えられても、追いかけられても蛙の面にションベン。 5頭の犬たちなんて屁でもない。 ボンボンママ家の庭はバック・グランドで、深夜でも裏庭に面した窓は開けてある。 しかしある早朝、クララがやかましく吠えた。 あまりのうるささにダンナが階下へ行き庭を見たら、猫が10匹以上いたのであった。 ヒッチコックの鳥ではないが、 「いずれ、クララが猫に襲われる。」と心配された。 以来猫対策に、夜は庭に面した窓を閉めることになった。 「こんなときマオがいてくれたら・・・。」 ボンボンママは「猫ごときに情けない。」とホゾを噛むのだった。 つづく
散歩から戻ると下駄箱に見事な栗があった。 ひっくり返すとマジックで乱雑に書かれた手紙が置いてあった。 召し上がり下さいませ。 お気に入らないかも知れませんが 村松の栗でございます。 私はけんかなどしたくありませんので おく様の気分をわるくしまして。 此の間はすみませんでした。 うらの安部でございます。 「ふむ・・ババア白旗かかげたな。」 ボンボンママは舌打ちした。 「期待していたのに・・早すぎるぜ。」 「安部オババ」といえば近所でも泣く子が黙る豪気な85才だ。 「こんな死に損ない相手に喧嘩しているの!呆れたァ。」 言っておくが喧嘩を仕掛けたのはオババだ。 だいいち85才だってなめちゃいけない。 安部オババは石臼のようなガッシリした身体に、 「トミーズ・雅」に似たナイスなルックス。 ファッションセンスもなかなかだ。 夏は結び目を前にした手拭いの鉢巻を頭に締め、 上半身裸という戦闘スタイル。 今時の若い女が「モテ服」などとほざいて 男に媚びているのと根性が違う。 売られた喧嘩を避けるにはもったいない相手だ。 つやつや輝く栗を両手で持ち上げたとき、猫の鳴く声がした。 つづく
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